もっとも簡単で、またもっとも重要なケトン。ジメチルケトン、プロパノンともいう。木酢(もくさく)液の中に含まれるほか、生体内にもケトン体(アセトン体)として、血液や尿の中に微量含まれている。
1910年代までは酢酸カルシウムの乾留によって製造していたが、その後炭水化物の発酵によってブチルアルコールとアセトンとを同時に得るアセトンブタノール発酵が開発された。現在では図のように、石油化学の産物であるプロピレンを部分酸化するヘキスト‐ワッカー法(赤色で示した経路)、ベンゼンとプロピレンを原料としてフェノールとアセトンを同時に合成するクメン法(青色で示した経路)により工業生産されている。無色で揮発性の液体で、水、エタノール(エチルアルコール)、エーテルには任意の割合で混じり合う。エーテルに似たにおいをもち、麻酔作用がある。還元性がないのでフェーリング液などとは反応しない。ケテンを経て無水酢酸を合成する原料となるほか、メタクリル酸メチル、ビスフェノールA、アスコルビン酸(ビタミンC)などの合成原料となる。
溶剤としての用途も広く、合成樹脂、ゴム、油脂、塗料の溶剤となるほか、アセチルセルロース、ニトロセルロースなどの溶剤としても使われる。マニキュアの除光液としても使われている。引火性が強いうえ、蒸気が空気と混じると爆発しやすい(爆発範囲2.55~12.8容量%)ので、取り扱うときには火気に注意しなければならない。
[廣田穰]
[参照項目] | アセトンブタノール発酵 | クメン法 | ケトン体 | 酢酸カルシウム | ヘキスト‐ワッカー法 | 木酢[補完資料] | アセトン(データノート)アセトンの工業的製法〔図〕