アイデンティティは、日本語では「同一性」と訳されることが多い。たいていの場合は「セルフ・アイデンティティ(自己同一性)」を指す意味で「アイデンティティ」の語が用いられている。
「セルフ・アイデンティティ(自己同一性)」は、心理学や社会学の分野において「一貫した自己・自我の意識」を指す語である。自己同一性は「自分は何者であるのか」という問いに象徴される。そして、状況や時期などによって変わることのない「自分は自分である」という自己認識として確立される。帰属意識などもアイデンティティの確立に密接に関わる。
アイデンティティ(identity)は英語に直接由来する語であり、本来は「同一であること」「本人であること」といった意味を基本とする言葉である。「身元」「素性」という意味合いもある。
ちなみに、identity の動詞形である identify は「同一である(他ではない)と確認する」「本人であることと確認する」といった意味で用いられる。
コンピューティングの分野では「対象を一意に識別できる」ように付与されるデータを「識別子」というが、この識別子を英語ではidentifierという。
(2023年6月10日更新)アイデンティティ 別表記:アイデンティティー英語:identity 「アイデンティティ」とは・「アイデンティティ」の意味「アイデンティティ」とは・「アイデンティティ」の意味は、「自己同一性」「主体性」「個人の根幹」または、「本人証明・身分証明」である。心理学および哲学においては、自我同一性、自我の不変性、自我の連続性と定義付けられているアイデンティティだが、その定義は抽象的であるため大枠で捉えられることが多い言葉だ。そのため、一般的に用いられるシーンは多岐にわたる。アイデンティティは「個人・自分自身」という意味合いで用いられるケースが最も多い。加えて、自己の持つ立場と合わせて使用されている。例えば、妻としての自分や医師としての自分、教師や生徒としての自分などのように使われている。
さらには、自己が持つ権利の主張や、自己が築き上げてきた誇りを表現するという意味まで含んでいる。具体的には、「研鑽を積んできた人間である。」「人権を持った個人である。」などだ。このようにアイデンティティとは、第3者に対して自分自身とはどのような人物であるかを説明する意味まで持つ言葉だ。しかし、本来アイデンティティは自分自身に対して示す言葉であり、個人を相手に主張する言葉ではない。そのため、一般的に用いられている用途は厳密にいえば正しい使い方ではない。
基本的にアイデンティティは個性(オリジナリティ)という意味を持っている言葉ではない。個性とは、他の何者かに対して自分自身を表現する言葉であるため、比較対象があってこそ個性という言葉が成り立つ。しかし、アイデンティティは何かと比較するという意味合いは一切なく、あくまで自分に対して使用する、いわば自己完結している言葉なのだ。
同一性という意味があるアイデンティティは、人生において不変的なもの、つまり外部の事象によって変化するものではない。例えば、人生において積み重ねてきた努力や学歴、または資格や職種などはアイデンティティとは異なる。さらには結婚や出産、様々な経験から学んだこと、または苦悩や喜びの中から変化していった自分の人格などはアイデンティティには該当しない。人間は年月によって外見や人格、肩書などが変化していくが、これら個人における可変的な事象はすべてアイデンティティとは言えないのだ。
このように、アイデンティティとは厳密に言うと非常に意味合いが限定的な言葉である。しかし、一般的には個人が積み重ねてきた可変的な事象や個性なども含んだ幅広い意味で用いられることがほとんどであるため、多義的に用いることは間違いであるというわけではない。
アイデンティティとは、20世紀において用いられるようになった比較的新しい言葉である。その由来は20世紀に活躍した発達心理学者であるエリク・エリクソン氏であり、アメリカにおいては最も有名な精神分析家としても著名な人物だ。エリク・エリクソン氏は、成長過程において様々な種類の差別に直面し、苦悩してきたことが後の思想形成や精神分析学に繋がってきていると言われている。また、エリク・エリクソン氏が初めてアイデンティティという言葉を用いたときは、多義的で動的な幅広い概念として捉えられていた。
アイデンティティは、ラテン語で「同じ」という意味を持つ「イデム(idem)」が語源となり誕生した言葉だ。語源からも分かるように、人間の根幹を成す魂は生まれたときから命が尽きるまで同一であり変わることがない。それこそがアイデンティティの本質である。一般的にアイデンティティは、第二次反抗期と言われる10代半ばの時期に確立すると考えられている。自分自身が何者であるか、現在置かれている立場において自分はどのように周囲から認識されているのかを考え始めるのがこの時期だ。
自我意識が芽生えることにより、社会や学校、親や家族の価値観と自分の価値観の相違に苦悩するため反抗期として表面化する。子供の殻を脱ぎ捨て新たな大人の自分へ成長するとき、いわばアイデンティティが確立する第二次反抗期は人生において大きな過渡期でもあるのだ。
アイデンティティと似た言葉に「アイデンティティ・クライシス」がある。アイデンティティ・クライシスとは、「アイデンティティの危機」という意味で、自己同一性を保てなくなる、または認識できなくなる混乱した心理状態を表す。アイデンティティクライシスは、第二次反抗期から青年期にかけて陥りやすく、「自分は将来どのような人間になるのか」「自分にはどのような仕事ができるのだろうか」「本当に自分が目指しているものは何なのだろうか」というように将来の自分自身に迷いを生じることが発端となる。肉体的には大人でありながら現実的には大人と同じように活動できていない自分自身に対して空虚感や不安が積み重なり、アイデンティティ・クライシスへと繋がっていくのだ。
そのほかの類義語には、「パーソナリティ」「インディビジュアリティー」「パーソナルアイデンティティ」などがある。これらの言葉はすべて個性という意味を持っているため、厳密に言えばアイデンティティとは異なる言葉だ。多様性が重要視されると共に、アイデンティティは「自分軸」という意味合いで用いられることも増えてきた。自分軸とは、自分の価値観が周囲に影響を受けて左右されることがなく、自分の内なる気持ちに正直に物事を捉え、そして考えることを言う。
それは決してわがままという意味ではなく、自分の根幹を成す魂に対して忠実に生きるという意味だ。様々な人とかかわりながら社会の中で自己を形成していく中で、自分軸を確立して生きることは決して容易ではないが、人生においてとても有意義なことでもあるのだ。
「アイデンティティ」の使い方・例文「アイデンティティ」の使い方・例文は、一般的に「自分自身の個性」「自分軸」という意味合いで用いられることが多い。例えば、「アイデンティティを確立するのが難しい時代である。」「自分のアイデンティティを生かして有意義な仕事がしたい。」「アイデンティティを確立したために、私の人生は大変豊かで実り多きものであった。」「周囲の価値観に揺さぶられることなく自分のアイデンティティを大切にして生きてゆきたい。」「アイデンティティは自分自身で作り上げるものだ。」などである。その他には、「一本の映画を見たらアイデンティティを揺さぶられた。」「相手によって態度が変わる同僚は、まさにアイデンティティが崩壊していると言えるだろう。」「私はボランティアで社会に貢献するようになり自分のアイデンティティを見出せるようになった。」「歴史や文化、人種を紐解きその国のアイデンティティを分析する。」「企業としてのアイデンティティを確立したことで大きな販促効果があり、一躍大きな成長を遂げることができた。」などもある。
また、アイデンティティとは苦悩を表現する場合にも用いられることが多く、「青年期はアイデンティティが確立されずに周囲の意見に翻弄され苦難の日々が続いていた。」「自信を持って子育てしてきたけれども、次第に子どもとの意思疎通が困難となり自分のアイデンティティが分からなくなってしまった。」「彼女がアイデンティティクライシスした理由は、度重なる病気に苦しめられ未来が見いだせなくなったためである。」「自分のアイデンティティが分からず、どのような仕事に付いたら良いのか分からない。」などである。
(2022年7月5日更新)