以下は、写真家について書かれた文章である。人の顔には個性が表れている。よく「写真家はその人の内面に迫らなくてはいけない」というようなことを言うが、心配しなくても写真には自然にそれが写っている。それこそが写真というものの特性だ。(注1)撮る者や撮られる者が気づいていてもいなくても、写真は①そこにあるものをかなり正直に描き出す。自然に、当たり前のようにいま撮った写真にはその人の「人となり」(注2)が、顔や髪形、肩や手のしぐさに表れて写っている。ポイントは、写真家が〝そのこと〟を強く意識しているかどうかという点にある。〝そのこと〟とはいま言ったふたつのこと。「人を撮ればその人の内面が写る」ということと「写真は写真家の気づかないことまで写している」ということ。(中略)②写真は2度撮られるという。シャッターを切る(注3)ときと選ぶときの2度だ。撮影の現場で気づいていなかったことも、それがその被写体(注4)の重要な構成要素であり、そこに写真家がセレクト(注5)の段階で気づき、そのことが一番よく表現された一枚を選ぶなら、それはその写真家の立派な作品、成功作だ。そしていい写真家ならその発見を生かして、じゃあ現場でもっとこういうことをやっておけばよかったというフィードバック(注6)を得て次の撮影に向かう。そしてまた撮れた写真でまた新しいことに気づき、それを生かしていく。つまり写真家は前もって(注7)すべてを知っている人ではないが、なにも知らないで済ます人でもない、ということだ。(注1)特性:特徴(注2)その人の「人となり」:その人らしさ(注3)シャッターを切る:シャッターを押す(注4)被写体:ここでは、写真に撮られる人(注5)セレクトの段階:選ぶ段階(注6)フィードバック:ここでは、反省点(注7)前もって:事前に